Bivo PHASE(ビーヴォ フェイズ)JUNさん


  1. 【はじめに】2007.11.30更新
  2. 【その1 Bivo始動一週間】2007.12.3更新
  3. 【その2 「もう飽きたでしょ」】2007.12.9更新
  4. 【その3 ぶっちぎりかなわない】2007.12.12更新

【はじめに】

青山・原宿の美容師さんたちが集まる勉強会で
JUNさんのカットを見たことがある。
土曜日の夜のサロンには
あのエリアの美容師さんたちがわさっと集まっていた。

JUNさんのカット姿を見ていたら
途中からなんだか胸がきゅっと苦しくなって
心臓がドキドキしてきた。
なんでかなと思ったら、
思わず息をとめて見ていたからだった。
それはみんな同じだったみたいで
JUNさんが前髪をアシメなラインで切り終わったとき
それまでしーんと静まり返っていたサロン内にいたみんなが
一気に「ふう」っと呼吸をした。

「完成です」
とJUNが言ったっとき
一拍おいて、ものすごい拍手が沸いた。
モデルちゃんが一回まばたきをして目を開けた。
鳥肌がたった。
これがデザインの力なんだと思った。

当時、回収したほかのサロンさんのアンケートからも
その興奮が伝わってきた。

「美容師の原点を思い出しました」

とか

「熱い気持ちになりました」

とか。

カットする。
それも
できるだけかっこよく。
できるだけ素敵に。

それが、美容師さんという職業なんだなーと
シンプルに思いながら、
なんだか、しん、と真摯な気分になって
家までとことこ帰ったなー。

インタビュー前に、そんなことを思い出していました。

【その1 Bivo始動一週間】

増田
今回は、よろしくお願いします。
では、一番旬の話題から、いかせてください。
Bivoさんができて、一週間くらいですか。
PHASEもBivo PHASEと名前を変えて再スタートしたわけですが
JUNさんの意識の中で何か変わったことってありますか?

JUN
そうですね、一週間ですね。
僕自身、PHASEで11年やってきたんですね。
僕がPHASEに入ったころには、
もうしっかり「PHASEイズム」的なものがかなりできあがっていたんです。
いい意味でいうと、しっかりとしたシステムが既にできていた。
でも逆にいえば、自分はそのシステムを
ずーっと引きずってやってきているところもあって
そういう部分を積極的に壊していかないと、現状維持はできるけど、
これから先への発展がないのかなと思ったんです。

現実的には、自分自身は、サロンの場所や内装が変わるわけでもなく、
お客さんもゼロになるわけではない。
なんら現実は変わらないんですけれど
だけど、自分の中で、また一からのスタートだな、と。
オープニングスタッフのようなまっさらな気持ちになりました。
10月3日からくる1人目のお客さんを
初めて来たお客さんだという気持ちでやっていこうと。

増田
サロンの名前が変わっただけではない、と。
Bivoというブランドの新しいスタート、ということですね?

JUN
名前が変わって、というか、名前しか変わってないんですけれど
でも、サロン名を考えていた頃に増田さんが何度も言っていましたけれど
名前が変わるということはすごくでかいことですよね。
長くいたからこそ、それはすごく感じるんです。
でもそれを前向きに考えてやっていこうと。
Bivoというブランドの旗を背負っていく。
新しいサロン、新しい自分、そういう意識で
柔軟にやっていこうと。

例えば、技術でいうとベーシックはさんざんやってきたと思うんです。
僕は、ベーシックができない人間が
クリエイティブに走るのは順番が違うと思うタイプ。
美容師って30年、40年やっていく仕事で、
その土台となるベーシックは、この10年PHASEでやってきたと思う。
これからは、ベーシックからの応用を
Bivoで柔軟にやっていかなきゃいけないと思っています。

って、これ、結構緊張しますね(笑)

増田
(笑)
いや、本当に、楽な気持で話してください。

JUN
PHASEの良いところでもあり、悪いことでもあると思ってきたのは
ある種、うちはお堅いサロンだというところ。

増田
言いかえれば、真面目ってことですよね。

JUN
そうですね。
お客様に対しては絶対にはずさないというところ。
本当に再現性が高いスタイルを大切にする部分。
ただ、世の中のそのときそのときのニーズやシーズンごとに変わるニーズ
それもあるじゃないですか。
シーズンごとに変わっちゃうようなものもある。
そこも、これからはもっと意識していきたい。
流行がどういう方向にむいても、
結局最後に戻ってくる場所にいるんだけれど、
でも、もう少し、流行に対しての道しるべになれてもいいんじゃないかと
サロンを立ち上げて特に思うんですよね。

増田
reveとサロンが統一されるということで、
今まで以上にサカキ(Bivoディレクター榊原章哲さん)と
からむことが多くなったと思うんですが
どんな話をするんですか?

JUN
しばらくサカキとサロンもわかれていたんだけど
Bivoを立ち上げることになって
最近、サカキとすごく話すんですよ。
ちょっとしたことでもお互い電話するようになって。
ああ良かったな、って思うんです。
今まで別々のサロンで、離れてやっていたからこそ、
こうなったんじゃないかと思います。
reveができて5年たつ。
5年前の自分をだいぶ見返すことができる。
まるで鳥かごに入っていた自分を、
今、外から見ることができる。
だから、多少成長したのかな、って。

お互い離れて、成長して、
こうやってまた組み直すというのは、珍しいと思うんですよね。
これもひとつの道として面白いと思う。
彼は、すごく成長したと思うんです。
何が成長したって、とにかく
最近会うと、オーラが出てるな、と。
昔はほら、浮遊霊がついてるような感じだったから(笑)

増田
ほわんほわんしてましたよね(笑)。昔は。

JUN
今は、虹色に輝くオーラが出てるなって。
ああ、すごいなって思うんですよ。
だから僕もそれに触発されて、
僕ももっともっと先を見ないといけないなと思うし
一球入魂じゃないけれど
お客様一人一人に対して入魂していかないと、と
改めて思っているところです。
やっぱり、オープンって怖いですよね。
前に、U-REALMの高木君が言ってたじゃないですか。
サロンにとって、オープン1年目はご祝儀みたいなもんだって。

増田
うん、言ってましたね。新年会でしたよね。

JUN
そう、1年目はご祝儀で仕事ももらえるし、お客さんにも来てもらえる。
でも、2年目からが本当の勝負だと。
今は、毎日毎日売上が気になるし、
各サロンの情報も気になるし、
一人ひとりのお客さんを本当に大事にしていきたい。
今の、この気持が一番大事だな、と思うんです。
今の気持ちが、一年後にずっと継続できていれば
うちのサロンはいけるし、自分自身もいけるんじゃないかと。

増田
なんか、すごく素敵ですね。

JUN
なんだかんだでaround30の美容師さん、
今、このへんでやっている美容師さんたちも
ぶっちゃけちょっと疲れているところもありますよね。
でも、精神的な部分が、今まさに実ってきている時期だと思うんですよね。
体力的には少し落ちてきて、メタボになっていたりするけど(笑)
でも、それを補ってあまりある精神面の強さというのが
恐ろしく高くなってきている。
鍛えられてきたメンバーだと思うし。
ゆとり教育の時代じゃなかったし
芯があると思う。
だから、この時期に、なんか最近、ちょっときつくなってきたって
言っちゃダメだなー、と。
今が一番充実している時期だし
今が一番無理がきく時期だと思うんですよ。
だから、ヘンに大人になっちゃうんじゃなくて
若い人と同じこと言ってていいと思う。
いまガンガンやっていかないと。
若い子たちに「ちゃんとついてこいよ!」って言えるように
僕ら世代が勢いを持ってバリバリやってないと。
それがちょっとくらい個人プレイだったりラフプレイだったりしても
バリバリやってないと、下の子たちもついてこないんじゃないかと。
アグレッシブで、バイタリティある仕事のみせかたを
していかないとダメだなーと。
Bivoの旗もって、ガンガンやっていく自分じゃないとダメだなって

なんかね、ルックスが輝いているとか
たちふるまいが超素敵、とかね、
そういうオーラが出ている人ならいいけれど、ね(笑)。
やっぱり、誰かの言葉じゃないけど
男って、顔じゃないと思うんですよね。
生きざまじゃないかと、ね。

増田
私、JUNさんの言葉で忘れられないのが
サロンの上の人たちが抜けたときに
「ピンチがチャンスなんだって思える自分で良かったと思うし
そういう時に、頑張れる自分でよかったと思う」って
言ってたんですよね。
ブログにも書かせてもらったんですけれど
なんかね、あれ、感動したんですよね。

JUN
あ、そう。そうなんですよね。本当にそうだと思うんです。
ポジティブシンキングでいきたいんです。いつも。

古い話で申し訳ないんですけれど、
僕もPHASE入ったに、かなりアシスタントがいて
スタイリスト20人、アシスタント40人くらいいたんですよ。
全部で60人。
でも、1年で30人くらいいなくなったんですよね。
で、いつの間にか、自分のポジションもあがっていくんですよね。
そうすると、自分がやらなきゃいけないんだなと
アシスタントなりに責任を感じるたんですよ。
まあ、もちろん、まだ背負えるほど強くないんですけれど。
誰かがいなくなった、そしたら、この仕事があいた、
あ、じゃ、オレがやれるんじゃないかとか。
そういう風に思ってずっとやってきたんです。

僕が増田さんに、「ある意味チャンスだと思う」って言ったのは
自分自身に対してだけじゃなくて、下の子に関してもそうだと思ったんです。
「お前、チャンスじゃん! あそこの仕事あいたよ
お前、さんざん見てきたんだから、お前ならよりいいものが作れるんじゃん?」って。
人が少なくなったときは、自分の仕事が増えるときだ、と。

同期が10人いた中で、僕1人が結局PHASEというかBivoに残ったというのは
やっぱり運命めいたものを感じるんです。
今まで美容師人生、いろんな分岐点ってあったと思うんですけれど
自分の気持ちが下がったり、何か問題がおきたときに
その問題を解決するのか、どうなのかというのは、
横への分岐ではなく、上下への分岐だと思うんです。
それってことごとく、いい形でポジティブに考えたら、
何も難しいことじゃなくて、とにかく上に、上に、
ポジティブに考えればよかっただけなんだなーと。それの繰り返しで今にいたったと思うんです。
困ったときこそ、上に、上にという考え方をしていけばいいのかな、って。

この仕事は大変な仕事だと思っているし
ちょっと冷たいように聞こえるかもしれないですけれども
人ひとりやめて落ち込んでいたらキリがないんですよね。
影響力があるスタッフがやめたら、ひきずられちゃう子もいると思うんですけれど
ひきずられるのって大抵いいヤツ、心優しいヤツなんですよ。
だから、自分が気をつけていたのは、スタッフと友達にはならない、ということです。
僕は、目指したいものがあってきてるんだから、友達を作りにきているのではない。
プロとしてやっていくんなら、もっとシビアにやっていくもんだ、と。

それは、外国行ってたときに、絶対日本人とつるまないぞと思っていた感じと同じですね。
言葉を覚えたくて、海外を知りたくて行ったんだから、
日本人とは友達にならなかったし、必要以上につるまないようにしていたし。
サロンのスタッフも同じ。
つるめばつるむほど、あとあとキツくなると思ったんでしょうね。
もしいなくなったときに情を感じるとキツいな、と。

増田
その、仕事相手と友達にならない、って感じは私もとてもよくわかる気がします。
私もやっぱり美容師さんのみなさんは友達ではないと思っていますし、
いい意味でライバルと言われたいと思います。

JUN
今の子たちって、抜きつ抜かれつ、どんぐりの背比べをしたがるんですよね。
でも、ほかの人と切磋琢磨していくことも大事だけど
一番大事なのは、自分がダントツぶっちぎってやるという気持ちだと思うんです。
例えば同期がいたとして
「お前がぶっちぎることが、同期の他の連中にとっても一番大事なんじゃないの?」って思うんです。
で、ぶっちぎられた方は、やる気がある子だったら、悔しいと思って伸びるだろうし。
厳しいようだけど、でもこの世界って、そういう世界だと僕は思うし。
それぞれぶっちぎろうという気持ちを強く持って、それぞれ一生懸命勉強する。そういう世界。
その上で切磋琢磨するのがいいと思うんですよね。

【その2 「もう飽きたでしょ」】

JUN
「生産性」という言葉があって
ビジネスライクな部分だけど、もちろん無視できないですよね。
んー、でも本来
「なんでこの仕事はじめたの?」と聞かれたら
絵を描きたかったから、としか言えないんですよ。
自分にしかできない絵を描きたい。
自分にしかできない家を作りたい、
自分にしかできない美味しい料理を作りたい。
それしかないんですよね。
でも、じゃあ、「自分にしかできない髪型が作れてるの?」っていうと
正直まだまだって思う。

絵を描きたかっただけ、髪型を作りたかっただけ。
ずっとそう思っていたはずなのに
僕自身、ともすれば、ベーシックとかやる前の、
美容師に対して夢を描いていた頃の考え方を
だんだん忘れちゃってるなって思うんですよね。
そのことが、自分の日々のサロンワークを面白くなくしていたんじゃないかって
最近思うんですよ。
毎日毎日違う顔のお客さんがいらっしゃるから、確かに仕上がりは変わります。
でも、毎日同じことを違う人で繰り返し繰り返しやって
それでいいのか? って思うんですよね。それは本当にまずいな、って思う。

増田さんも、ブログに書いてくれましたよね。
僕たちはほんと、クリエーターなんで。
アーティストだとも思うし。
だからこそ、本来、人と同じ絵なんて描けないはずなんですよ。
似れど違うと思うし。
でも、それをみんなで一緒にしようとしているような
そんな錯覚さえおこさせるような時期がありましたよね。

増田
はい、ありましたね。
今も引きずっていると思います。

JUN
でも、本来100人100色でいいはずでしょ。全員違っていいはず。
そう思って仕事をしていたら、
同じ仲間といっても根本的なところは違うと思うし、
完全には交われないと思うんですよね。
うーん、これ、ちょっと言い方難しいですね……。

増田
大丈夫です。
JUNさんのおっしゃっていることは
ちゃんとわかります、というか、わかってると思う。
画家の人たちが1枚の絵を描く時に
共同作業するか、というと、しないということですよね?

JUN
ああ。そうですね。
誰かが下書きをして、
「じゃあ、あとはお前、色つけをしといて」なんて無理ですよね。
自分のイメージってあるじゃないですか。
分担できるものじゃないですよね。
パーマをアシスタントにまかせるのだって難しいし
カラーをさせるのでさえ、本当に難しいんですよ。
だって、自分の持っているイメージを全く100%共有できるなんて
そりゃ、パーマンじゃないんだから、無理ですよね(笑)。

増田
パーマン……(笑)
いやー、今、すっごいover30歳だなーと思った(笑)

JUN
ははは。いやいや(笑)

でね、
じゃあ、今のやり方で、一日に何人可愛くできるの? っていうところだと思うんです。
全員100%でぶつかるのは本当に無理? それだと10人しかできない? いや20人いける?
っていうことを考えるんですよね。
確かに、生産性というのは大事だと思います。
それはよくわかります。
わかるけど、生産性だけにいきすぎちゃだめで、
ちゃんとお客様とぶつかっていないと
そのうち、お客様が納得しなくなってくるんじゃないかなって。

増田
特にこのエリアにくるお客様はそうでしょうね。

JUN
そうだと思うんです。
何回同じ提案するの?
もういい加減、何回同じこと繰り返すの? って
服と一緒で、私は髪型も変えたいのよって。
そうなっちゃうんじゃないかなー。
お客さんが飽きちゃうんじゃないかなって思うんですよね。
じゃあ、僕はどうすればいいかというと
初心にかえらなきゃいけない。
初心の初心ですよね。

増田
前に、たっちゃん(Tierra 三笠竜哉さん)と
CendrillonのリレーQAの取材で話をしたときに
「たっちゃん、最近作るもの変わったよね?」って話になったんですよ。
そしたら、やっぱり彼自身もそう思っていて
「今まで作ってきた自分のヘアスタイルに飽きた」って言うんですよね。
同じものをずっと作っていると、
なにより自分が一番最初に飽きちゃうから
どんどん新しいものを作っていきたいって。

JUN
うんうん。
雑誌って2か月前に出るじゃないですか。
だから、本来、雑誌が発売になったときは
それを見て「ああ古いな??」って
1%でもいいから、どっかそう思えたほうがいいんでしょうね。

増田
うん。そうでしょうね。

JUN
雑誌見ていても、
新しいところにスムーズに動いているように見える美容師さんもいるし
何号かもがきながら変わっていく人もいますよね。

増田
そうですね。いろんなタイプの方がいらっしゃいますよね。
ただ、私自身は、なんでもかんでも早ければいいとは思っていないんですよ。
お客さんが迷いながら揺れながら新しいヘアに挑戦していくのと同じで、
一緒に揺れながら試行錯誤しながらチェンジしていっていいと思うんですよね。

JUN
うん。そうですね。

増田
前にもJUNさんに話をしたかもしれないんですけれど
雑誌の撮影って、私がお願いしている美容師さんたちって
もう新規を制限なく取れるような人たちじゃないですよね。
しかも、もう、1枚の写真で300きました、400きました、って時代じゃないしね。

JUN
そうですね。そういう時代じゃないですね。

増田
でも、それでもなぜ、
美容師さんは雑誌の撮影をするか、
私は雑誌の撮影をお願いするのかって考えると、
雑誌の撮影現場にいること自体が
すごくいいんじゃないかって思うんですよ。
3ヶ月後の雑誌に出る髪を
撮影現場で3か月先どりして見ることができるというのは
やっぱりすごく大事だと思うんですよ。
それは、3ヶ月後に、雑誌で初めて見るのとは全然違うと思うんですね。

JUN
ああー。なるほど、なるほどね。

増田
このエリアで活躍している美容師さんって
雑誌が出てから、ああこのスタイルがくるんだ、と思って練習するんじゃなくて
3ヶ月後の雑誌でこれが出るということは、
その先、4ヶ月後に出る雑誌はこうしなきゃいけないって
予想しながらやっていきますよね。
そこが、このエリアでやっている人たちなんだと思う。

以前ね、DADAの植村さんがインタビューでおっしゃってたんですけれど
どんな地域の美容師も頑張っている人は同じように頑張ってる。
青山・原宿の美容師だけが頑張っているわけじゃない。
でも、その、一生懸命頑張っている時間を「どこに費やしているか」
という部分に違いがあるんじゃないか、というお話をされていたんですよ。
今まさに出ている雑誌のスタイルをお客さんに落とし込むための練習か、
それともこの先の流行だったり、業界の流れを考えての練習か、という部分。
そう言われて、私はすごく「このエリアの美容師さんの役割」を
意識するようになったんですよね。

JUN
僕は、お客様にカウンセリングをするときに
ひとつ、他の美容師さんとは違うことがあるんですね。
まず最初に、
「前回のヘアスタイルはどうでしたか?」っていう話をしますね。
で、そのあとに……

増田
はい、そのあとに……

JUN
「もう飽きたでしょ?」って言います(笑)

増田
えーー(笑)。
そっかー。なるほど(笑)。

JUN
何も聞かないでいけば、マイナーチェンジの可能性が高いけど
「もう飽きたでしょ」って、ひとこと言うと……

増田
そりゃ、ハードルあがりますよね?

JUN
そうなんですよ(笑)。
そう。だから自分を苦しめることになる。
でもあえて、自分に挑戦しているというか。
確かにぐっとハードルあがるんですよね。
結構マゾヒスティックですよね(笑)
で、そう言うと、慣れているお客さんには
「JUNさん、切りたいんですか?」とか言われちゃうんですよね(笑)。
そしたら、「いいえ」とは言わないですよね。
「はい。そうですね。ちょっと変えたいですね」って。
もちろん「これが気に入っているから変えなくていいよ」と言われれば
全然それでいいんですけれどね。

「飽きたでしょ」って、
たった一言だけど、かなり強力な言葉だと思うんですよ。
美容師が自らそう言うってこと。
でも、そういうスタンスでいたいというのが、自分の中でずっとあって。

そんな、どでかいチェンジはしなくてもいいから
ちょこっとバングの表情変えてあげるとかでもいいから
前回と同じじゃないことをしてあげたいんです。
だから、あえて自分に課して、「飽きたでしょ」って言葉を使ってます。

増田
それはいつごろから?

JUN
もう、かなりずっとです(笑)。ずーっとやっていますね。
毎回葛藤ですけれどね。
「言うな、言うな」ってね(笑)。
「お前、何人たまってるんだよ」って思うんですけど(笑)。

増田
Bivoさんに夜遅くに打ち合わせにくると、
だいたいいつも最後まで残って切っているのはJUNさんですよね(笑)。

JUN
ははは。本当にそうですね。
なんで一番最初に来て、最後に帰ってるんだろうって思うときもありますけれど(笑)
でも、ね。言っちゃうんですよ。毎回。
「飽きたでしょ」って(笑)

で、そんなこんなでやってると
自分のお客様がどんどん短くなってくるんですよ(笑)
ほんと、笑っちゃうくらい。
ショートとボブが50%くらい。
それも顎上ボブとか、ね。

増田
ボブ、いいですよね。

JUN
うん。好きなんですね。
はさみを入れたら、「あ、入れた!」ってなるものだから。
すごくわかりやすいじゃないですか。
バツっと入れたらバツっとなる。
ロングの毛先とはわけが違う。
ニュアンスうんぬんではなく、
そのとおりになっちゃうというところに
どこかでスリルを感じているんでしょうね。

そんなんだから、
僕のお客さんは、ちょっと変わってるなという人が多いですよね。
初めての時に「どういたしましょうか?」って聞いたら
しょっぱなから「おまかせする」って言ってくる方とか。
「あ、やばい。ケンカ売られた」って思いますよね(笑)。
もちろんいい意味で、です。
で、そのケンカ、絶対買いたくなるんですよね(笑)。

増田
そうでしょうね(笑)

JUN
そんな僕を見ているせいか、
下の子も、なんかクセのあるお客さんを連れてくる子が多いんですよね(笑)
そういうお客さんの時は
「ケンカ買ったれ!」って下の子に言いますね。
ちょっと小さい声で(笑)。
でもね、僕達は
そういうクセのあるお客様をモノにするような仕事をしなきゃいけないと思うんです。
ケンカを買って、本当に似合わせれば、絶対また来てくれますから。
「そういうお客さんこそ、生涯顧客にしてみせろ」って、よく言いますよね。

でね、ちょっと話が戻りますけれど、
そういうお客さんはきっと
サロンに行った時に「もう、飽きたでしょ」って言われたいと思うんですよ。

増田
ああ、なるほど。
そうでしょうね。

JUN
毎回勝負になって、結局自分が苦しくなるんだけど
それでもそういうお客さんと毎回勝負したいんですよね。
「いろんなスタイルを作れる人間だ」とか
「美容師としていろんな引出のスタイルを持っている人なんだ」と
お客さんに思われたいし、自分もそれを確立したい。

そのお客さんにとって
似合うスタイルは1つだけじゃなくて、10個あるほうがいいじゃないですか。
それで、10個あるそのスタイルが常に似合っているのがよくて
ファッションもがらっと変えるパワーがあって
「あなたは髪型もファッションも、毎回常に自分のモノにしているよね」って
そう周りの人から思われたいって考えている人達だと思うんですよ。

僕は、そういうクセのあるお客さんを、
美容師をこれからもやっていく上で、増やしていきたい。
それは生産性とはズレるかもしれないけど。
そこはもう、ワガママを言わせてもらいたいんです。
美容師として、最終的に楽しかった、幸せだったと思うのは
そういうお客さんと一緒にやっていくことだと思うから。

何百万まで、というところまではちゃんとやります。
でも、そこから先の数字を無理に売り上げることで
そういうお客さんと一緒にやっていけなくなるのなら、
そこより先は、正直言ってやりたくないな、と。
最近35歳近くなって、そう思うんですよね。

【その3 ぶっちぎりかなわない】

増田
JUNさんの、このデザインに対するこだわりというのは
PHASE DNAなんでしょうね?

JUN
それはもう、完璧に横手さんからのDNAでしょうね。
横手さん、納得するまで、お客さんをお返ししませんから。
ちょっとでもディティールが違うと、「ちょっと時間ある?」って聞いて。
泣きの3回目のワインディングとか……。

増田
横手さんに通っているお客さんに
時間かかる時は、すごくかかるのよーって聞いたことがあります。

JUN
でも、どんなに時間がかかっても
「この人は絶対妥協しない」という姿勢を買う人は、ずっと通い続けるんですよね。
生涯お願いしたいと思う美容師は、そういう人なのかもしれないですよね。
他のサロン行っても、やっぱり戻ってくるんですよ。
時間かかったとしても、横手さんは絶対気に入るところまでやってくれたって。
妥協ラインって、ひとそれぞれだと思うんですけれど
結局、そのラインの高い人に最終的に頼むんだなーって思いましたね。
1ミリ単位でこだわりますからね。

僕自身、今、お客さんに対して絶対やるようにしているのが
5分でもいいので、その人にめちゃめちゃ集中すること。
どこも見ない、ちらっとでも横をみない、
そのお客さんだけに集中した時間を作る。
話もしないで、がっと集中モードになること。
「この人、めちゃめちゃ集中している」
と思わせる瞬間を、5分でいいから絶対に作るようにしています。

増田
お客さんは、嬉しいでしょうね。
その「自分の髪にここまでこだわってくれる」というのは。

JUN
逆に、今僕たちがやっている撮影は、
逆に、そこはあえてこだわらないことが
可愛いかったりするし、硬さがとれたりするんですよね。
だけど、それに慣れちゃって、
1ミリにこだわれなくなるのは僕はやっぱり嫌なんです。

曲線が作れるだけじゃなくて
おそろしいくらいの直線も作れないと嫌。
一般誌で可愛いもの、センスあるもの作っていて
でも、業界誌に行った時に「えー? これ、一般誌じゃん」って思われちゃいけない。
「一般誌でめちゃめちゃやわらかいものを作れるのに、業界誌もできるんだ。
コイツ、何モノ?」って思われる人になりたいです。将来的に。
MINXの岡村さんとかスゴイと思う。
どちらもできる人というのが、昔から憧れですね。

増田
直線と曲線という話で、今、思い出したんですけれど
昔、佐藤可士和さんがドコモの携帯をデザインされたときに
すっごくシンプルで直線的なデザインのものを作られたじゃないですか。
あれは、仕事の依頼がきた瞬間に、あのデザインがぽんと頭にひらめいたらしいんです。
コンセプトよりもなによりも先に、ビジュアルが浮かんだって。
で、記者発表の段階になって
「『どうしてあのデザインにしたんですか?』って聞かれたら困るな??」って思ってたらしいんですよ。
だからなぜ自分は直線にこだわったのか、ということを、
自分なりに掘り下げたらしいんですね。
そしたら「潔さ」という言葉にたどりついたらしいんです。
自分は潔いものを作りたいんだな??と思ったと。
あとね、自然界に直線のものって何ひとつないんですよ。
人間がプロダクトするもの、デザインするものだけが直線だと。
なので、今回は直線にこだわってみた、という結論に達したという話だったんですね。

私、この話、結構好きなんです。
「人間がデザインするものだけに直線が生まれる」っていう話。

JUN
なるほどね

増田
もちろん、可士和さんには、
フリーハンドでデザインした幼稚園みたいなデザインもあるので
直線だけの引き出しの人では全然ないんですけれどね。

JUN
ドコモの携帯って、あの赤とかのやつですよね
ピシっとしたデザインのやつ。

増田
そうです、そうです。
「デザインした」っていうことがはっきりわかりますよね。

JUN
携帯見て、かっこいいとか全然思わないんだけど
あの携帯は「うわっ、カッコイイ!」って思いましたもんね。
今の携帯はそれを引きずってますよね。

増田
曲線も作れて、直線的なものも切りたいっていうのは
デザインする人の生理的な欲求というのもあるような気がするんですよね。
直線って、「自分が手を入れた感」が顕著に出るのかなーって。

JUN
今、美容師さんたちって
パッツンボブにしてくれとか、ライン出してくれっていったら
その瞬間、体温あがると思うんですよ。

増田
うん、うん。

JUN
昔はよくやっていたのに
なぜかいつのまにそうじゃなくなっていたんですよね。
今のこのあたりの美容師さんたちって、
もう、普通は切り直しなんてしないと思うんですよ。手が覚えているし。
でも、ボブ切るときって、
ウェットで切ってドライしたら、微妙にグラが入っていたり
左右がほんの少しだけ違ったりするじゃないですか
その時に、その「ほんの少し」を直している時、
自分が可愛いなって思うんです(笑)。

増田
ははは。なるほどねー(笑)。

JUN
一生懸命汗かいてね、
専門学校でも一番最初にやるような「まっすぐ」を
一生懸命やっているという自分がね、ちょっとね、可愛いんですよね(笑)。

増田
JUNさんって、サロン内外の周りの人から
横手さんの正統派後継者って思われているのかなって思うんですけれど
そういう意識って、JUNさんはあります?

JUN
ちょっと昔話になっちゃうけれど
僕、ずっと「お前は最もPHASEらしくない」って言われていたんです。身なりも考え方も。
スタイリストになるときも、技術チェックがあって、
僕はクリアしていたんですけれどスタイリストにならせてもらえなかったんですよ。
精神的な成長を求められて、クリアしていてもスタイリストにはしないって。
その時は本当にひねくれましたよ。
「受かったのにスタイリストになれないって何?」って思うわけですよ。
そんなときもありました。

で、スタイリストになってからも、いろんな人に怒られるわけです。
そういうとき、横手さんが
「俺はお前を万馬券だと思っているから。当たるまで買い続けるから」って
言ってくれてたんですね。
どんなに叱られても、そう言い続けてくれたんですよ。

増田
うわ。涙出そうです。

JUN
スタイリストの先輩たちも
「かんべんしてくださいよ。もうアイツは無理ですよ」って
横手さんに直訴しにいったりしてたんですよね。
でも、「そういう行動はすべてアイツの正義感からきているものだから
俺に免じて、もうちょっと見てくれ」と言い続けてくれた人なんですよね。

はじめて、全てのことに対して、ぶっちぎりかなわないと思った人なんですよ。
「この人にはなにもかなわない」って。
自分がやってこれたのは、
横手さんが「ぶっちぎりかなわない人」だったから。
はやくても10年、遅かったら20年かかるかもしれないし、
もしかしたら向こうが先にいなくなっちゃうかもしれないけれど
でもその影を追って、いつか絶対追い越して、
横手さんには隠居してもらいたいな、って思ってずっとやってきたんです。
そうですねー。いま、やっと足元が見えたくらい。かな?
まだ先はかかりそうなんですけれど。

人間的に、あの人には、本当に恩義を感じているんです。
すべてにおいて、一生頭があがらない人だなって思う。
それは「いろいろ教えてもらいました」っていうことじゃなくて
人間的にずっと「かなわない人」でいてくれたということ。

横手さんを知っているお客さんには
「仕事の仕方がそっくりね」って皮肉られるんですよ。
自分では思っていなかったけれど、すごく言われる。
ある種シビアすぎるところ、やりすぎて、下が全くついてこれない時もあるところ。
作品云々ではなく、そういう部分は
僕が横手さんの後継者なのかなと、自分でも自覚している部分です。
スタイルに関しては「横手印」ってあるので、
そこをマネしてもしかたないし、かなわない。
だからこそ、自分はどういうスタイルを作っていけばいいのかというのは
もう何年も模索していますね。
  
増田
話を聞けば聞くほど感じることがあってね、
私、JUNさんとはwithや、その前にRayなんかもお願いしていて
で、withが一番がっぷりやらせてもらったと思うんですけれど
知らなかったんですよ。JUNさんがこんな人だって。
やっぱりモテというか、好感度命、な雑誌ですから。withもRayも。
モードな雑誌じゃないですよね。
だから「全然接点もないまま、知らない人」だった可能性もあるなーと。
あとは、「知っているけれど、分かり合えない同士」だった可能性もあるなーと。
お互いに。相いれなかった可能性もあったと思うんですよね。

JUN
うん。僕がね、増田さんの上っ面だけ見て
「うわー怖い人だ」って思うだけとかね(笑)

増田
うんうん。ありえた(笑)。

JUN
そうですね、もしかしたらちょっとレールがずれていたら
お付き合いしてなかったかもね。
ちゃんと話さないとやっぱりわからないですよね。
今日も、僕、増田さんとつきあいがもっと浅かったら、ここまで話さないと思う。
もっといいところだけ話していたかもしれないし(笑)。

増田
怖いで思い出したんですけれど
JUNさん、最近、優しくなりましたよね?

JUN
そうですねー(笑)
僕も「おはようございます」とか「ありがとう」とか言えない人大っ嫌いで、
昔だったら、いきなり説教だったりしたんですよね。
今まで世の中の決まりに対して、すごくうるさくしていたんだけど
今の下の子たちにうるさく言って、必ずしもいい結果になるのか? って思ったり。
いや、なるはずだ、って思ったり……。揺れることもありますね。
だけど、揺れること自体、それは成長だと思うんですよ。
なるべく柔軟に物事をとらえるようになれないと
自分が年とったとき、美容師できるのかなという不安があるんです。

でも、この仕事いくつまでやれるのかなって考えたとき、
そのいい目標として、近くで1日20何人、
55歳でぺろっとやっている横手さんの姿があることは
本当にはげみになります。

増田
ぺろっと、というのがいいですね(笑)

JUN
(笑)
この歳までできるんだなーていうのは本当にはげみになりますよね。
いや、横手さんが特別なのかもしれないけれど。

増田
これ、聞いてよければ、なんですが
JUNさん、今年、お子さんが生まれてお父さんになられましたよね。
何が一番変わりました?

JUN
そうですね。
やっぱりさっきも言われたけれど、優しくなったってことでしょうね。
ベタな答えだけどそれが本音です。
子育てが本当に大変だから、父母に優しくなった。
ありがとうという気持ちでいっぱいで。
でね、自分の身内に対してこういう感情がわくということは
すべての人に対して優しくなれるということだと思うんです。
他人なのに、自分に一生懸命アシストしてくれるアシスタント
他人なのに、サロンに足を運んでくれるお客さん。
みんなに対して、ありがとうって思う。

増田
いろんな人に愛情がいくんでしょうね。

JUN
あとね、
髪一本一本にも愛情を注げるようになったと思います。
扱いが丁寧になった。
前に、アクアのちはるちゃんが
「今日はコームのあたりが強いね」ってお客さんに言われて
ハッとしたことがあったって言っていたけれど
あれと同じですね。

増田
JUNさん、今日は長い時間、素敵なお話をありがとうございました。
でね、これって、若手の美容師さんだったり
まだ美容師になるかどうか迷っている人にも読んでほしいなーというのがあるんです。
なので、最後に、そんな美容師の卵のみなさんに、一言メッセージをもらえますか?

JUN
うーん。難しいな(笑)。
そうですね。
うん、この仕事は一生続けていける仕事だと思う。
きっと最後に美容師でよかったと思える仕事だと思う。
でもそれはカッコつきで、(頑張れば)ということですが。
50人に1人らしいんですよ。
生涯美容師を続ける人の人数って。
僕は、その50人の1人として
まだまだ頑張っていきたいし、
最後に「美容師やっていて良かった」と思えるように
これからも上、上、目指していきたいです。

増田
JUNさん、ありがとうございました。
では、また半年後に!

2007.10.13取材分 完